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「誰もが、自分のペースでDEIを学べるように」——eラーニング開発に込めた想いとは?

#教育・啓発

社内で「DEIについて学びたいけれど、まず何から始めればいいのかわからない」という声が上がっている企業も多いのではないでしょうか。そのような組織のニーズに応えるために、NPO法人東京レインボープライド(TRP)が開発した法人向けDEI eラーニングプログラムが、2025年6月から正式提供を開始しました。
TRPには、DEIやLGBTQ+に関する専門的な知識と教育経験を持つスタッフが在籍しており、その学術的な知見に強みを持っています。本プログラムは、そうした専門性に加えて、企業・団体・学校・自治体に対して積み重ねてきた研修や講演、コンサルティングの実践的な経験を活かして設計されています。
今回は、このプログラムの開発背景や込められた想い、そして今後の展望について、開発に携わったメンバーに話を伺いました。

伊藤 月菜
特定非営利活動法人東京レインボープライド
事業創生チーム

秋田県出身。国際教養大学卒業。在学中にサンフランシスコ州立大学に留学し、セクシュアリティ、レイス・レジスタンス、アメリカ先住民研究を中心に学ぶ。在学中の2019年に秋田プライドマーチを立ち上げ、アクティビズムを通じて地方におけるLGBTQ+の可視化に取り組む。大学卒業後、DEIBコンサルタントとして企業研修やコンサルティング業務に従事。現在、NPO法人東京レインボープライドの事業創生チームにて、eラーニング教材の開発メンバーとして活動している。

「してはいけないこと」を並べるだけでは、本当の理解は生まれない

——このeラーニングを企画された背景について教えてください。

企業のDEI研修に携わる中で、多くの研修がコンプライアンス(法令遵守)研修として「してはいけないこと」を並べる抑止力のような内容が多いことが気になったのがきっかけです。
本来、誰もが持っている多様性や受けるべき公平性、誰もがお互いに暮らしやすくなる包括性という考え方は、誰もが知っていて役立つものです。「逆差別だ」「DEIが進むと何も言えなくなる」などの意見を持った方に、そもそもDEIや差別とは何なのか、自分は社会的にどのような立場にあるのかを考えてもらうことで、自分自身の少数派としての一面と向き合い、社会全体の「Ally(アライ)」になってもらえるような、独自のeラーニングを作りたいと考えました。


——対面研修との違いはどこにありますか?

対面研修にはリアルタイムでの質疑応答や参加者同士の対話など、確かに素晴らしい部分があります。私たちも多くの対面研修を実施してきましたし、その効果は実感しています。
一方で、eラーニングの最大の違いは自分のペースで進められることです。対面研修では聞いた情報だけでは深い理解が追いつかず、形だけの参加になってしまうこともあります。
私たちの目標は、表面的な行動にとどまらず、少数派と呼ばれる人々と自分を見つめ直すことで、DEIの考え方を身につけてもらうことです。

本eラーニングのポイントは一人でじっくり考える時間を確保できること。何度も読み返し、「そうかな?」と考える時間をとり、今まで気づかなかった自分の新たな一面を知りながら、違いのある他者への理解を深めるきっかけとなればと思っています。
理想的には、eラーニングで基礎的な理解を深めた後に、対面研修で対話を行うという組み合わせが効果的だと考えています。

3つのタイプの組織に効果的な設計

——どのような組織に特に効果的でしょうか?

大きく3つのタイプの組織を想定しています。

1つ目は、これまで似た背景を持つ方々とのコミュニケーションが多かった組織です。普段の業務で、多様な状況の方とやり取りする機会が少なく、組織内で少数派の立場に気づく機会もないかもしれません。本eラーニングでは性のあり方だけでなく、障害、多文化、宗教など様々な属性をカバーし、現実に即したケーススタディで、今まで出会ったことがない人々の存在を知るきっかけとなります。

2つ目は、多様な背景を持つ方々が働く組織です。知識をインプットする機会がないまま、差異の大きい方々とコミュニケーションをとり続けることは双方ストレスになりがちです。難しい概念をイラストやゲームのようにわかりやすく説明し、各少数派の視点も取り入れることで、相手の境遇を想像するヒントを提供します。

3つ目は、集合研修では集中が続かない、忙しい人たちが多い組織です。動画の研修では受け身になりがちで、テスト対策に集中して考える時間が不足しがちです。開発チームには、ゲーム開発経験のあるエンジニアもおり、オンライン上でも双方向的に学習できるようにしています。
このような組織の担当者の方には、特におすすめしたいプログラムです。

モジュール1:見える属性と見えない属性の両方に目を向ける

——モジュール1の具体的な内容について教えてください。

モジュール1「DEIについて学びましょう!」では、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)の基本的な考え方を学びます。
人は性別、国籍、年齢、障害の有無、働き方、家族構成など、さまざまな「属性」を持ち、それぞれ異なる背景を抱えています。こうした「見える属性」と「見えない属性」の両方に目を向けながら、多様な人々と共に働き・生きるための視点を養います。

特に重要なのは、すべての人に同じ対応をする「平等(Equality)」と、一人ひとりに必要な配慮を行う「公平(Equity)」の違いです。多様な人が安心して参加・活躍できる環境づくり、すなわち「包摂(Inclusion)」の重要性について、具体的なケーススタディや問いかけを通して理解を深めます。

——受講者にはどのような変化を期待していますか?

DEIが「最近の流行」から、「自分や周りの他者について考えられるツール」へと認識が変化することを期待しています。
「多様性」「ダイバーシティ」という言葉の認知度は上がりましたが、本当の意味が理解されないまま一人歩きしています。そのぼんやりしたイメージを、自分や他者について考える時のコミュニケーションツールとして使えると思ってもらえれば、DEIが本当に広まっていくと思います。

中小企業や非営利団体でも導入しやすい仕組み

——リソースに限りのある組織への配慮はありますか?

はい。リソースに限りのある中小企業や非営利団体にとっても導入しやすいDEI教材となることを意識しています。オンライン形式により、時間や場所にとらわれず、誰もが無理なく学べる学習環境を実現しています。
一部の企業だけでなく、中小企業や非営利団体を含む全国のあらゆる組織で、LGBTQ+をはじめとする多様な人々が尊重され、安心して働き、学べる環境が広がってほしいという想いで開発しました。
従来のDEI研修では、外部講師を招いた集合研修が一般的でしたが、これには「全員が同じ時間に集まる必要がある」「コストが高い」「一度きりで終わってしまう」といった課題がありました。もちろん、対面研修には参加者同士の対話や講師との直接的なやり取りといったメリットもあります。

eラーニングなら、各自のペースで学習でき、繰り返し受講も可能です。シフト制の職場や在宅ワーカーが多い組織などでも、非常に有効な学習手段となります。eラーニングで基礎知識をしっかりと身につけた上で対面研修を行えば、より深い対話と実践的な学びが実現できるでしょう。

今後の展開:実践的なコミュニケーションスキルを

——モジュール2以降の予定は?

より日常で使える実践的なスキルを養う内容を予定しています。考え方を様々な場面で応用することは理想ですが、実際にスキルとして使うには練習が必要です。
モジュール2以降では、実際のケーススタディを通じて、人を傷つけないDEIなコミュニケーションを実践できる練習に取り組んでもらいます。ただ「やってはいけないこと」を学ぶのではなく、ある言動が他者を傷つける理由とどう改善できるかの「なぜ」と「どうやって」を大切にした教材作りをしています。

誰もが包摂される社会を目指して

——このeラーニングを通じて、社会にどのような変化を期待しますか?

まずはDEIが特別な人が考えることや世界的な流行ではなく、一人ひとりが日常で感じられる身近な考え方だと知ってもらい、DEIに対するイメージを変えたいと思います。
その上で、社会的少数派が直面する構造的差別がなくなることを願っています。同時に、今は特権の有無に関わらず誰もが生きづらい社会だと感じます。多数派の立場にある人々が、他者の存在を通じて自分の辛さ・弱さを認め、自分も包摂されるべき一人であるように、他者も包摂されるべき存在だという認識が広まることを望んでいます。

——ありがとうございました。


まずは無料体験版で内容をご確認ください

TRPの法人向けeラーニングプログラムでは、法人向けに1週間の無料体験版を提供しています。実際の学習画面や内容を体験いただき、自社の研修ニーズに合うかどうかをじっくりとご検討いただけます。

こんな組織におすすめです:

  • DEI研修を初めて導入する企業
  • 従来の集合研修に限界を感じている人事担当者
  • 多様な働き方の従業員を抱える組織

導入のメリット:

  • 時間と場所を選ばない柔軟な学習環境
  • 一人ひとりのペースに合わせた深い理解の促進
  • 外部講師費用と比較した際のコストパフォーマンス

DEIの推進は、短期間で実現できるものではありません。しかし、適切な教育と継続的な取り組みによって、確実に組織文化を変えていくことができます。まずは無料体験版で、新しいDEI教育の可能性をご確認ください。

eラーニングプログラム詳細ページ
無料体験版のお申し込み

インタビューを通じて感じたのは、開発チームの「DEIを身近なものにしたい」という熱い想いでした。従来の「してはいけないこと」を中心とした研修ではなく、一人ひとりが自分自身と向き合い、他者への理解を深められる学習体験を作り上げようとする取り組みが印象的でした。
このeラーニングが、組織の規模や業界を問わず、多くの職場でDEIについて考えるきっかけとなることを願っています。

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