経済産業省トランスジェンダー女性職員の施設利用における 最高裁判所の判決を受けて
NPO法人 東京レインボープライド
2023年7月11日、経済産業省に勤務するトランスジェンダー女性の職員が、省内の女性用トイレの使用を制限されているのは不当だとして国を訴えた裁判で、最高裁判所は5名の裁判官全員一致の意見として、トイレの使用制限を認めた国の対応は違法だとする画期的な判決を言い渡しました。逆転勝訴となった判決はもとより、後半部分で5人の裁判官全員が付けた補足意見も非常に重要な指摘です。
いずれの裁判官も補足意見において、「自認する性別に即して社会生活を送ること」が、「取り分けトランスジェンダーである者にとっては、切実な利益」であり「法的に保護されるべきもの」と認めた意義はとても大きいと考えます。また、その上で、宇賀克也裁判官が、「性別適合手術は、身体への侵襲が避けられず、生命及び健康への危険を伴うものであり、経済的負担も大きく、また、体質等により受けることができない者もいる」とし、手術を受けない場合でも「可能な限り、性自認を尊重する対応をとるべき」と指摘した点もとても重要です。というのも、先進国では手術の有無にこだわらず、本人の意思を尊重した性別移行が認められており(※)、未だ戸籍上の性別変更に手術要件を課している日本の法律は、人権侵害であると世界から厳しい指摘を受けています。それでもなかなか変わらない日本社会の現状がある中で、今回の判決は日本の戸籍上の性別変更要件の見直しに大きく繋がると考えるからです。
(※世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)が「性同一性障害」を精神疾患の分類から除外したことで(2022年1月発効)、トランスジェンダーの概念は世界的には「脱病理化」へと向かっている)
さて、昨今のトランスジェンダー女性へのバッシングには、激しい憤りを感じざるを得ません。「心が女だと言えば、誰でも女性用のトイレや風呂に入れるようになる」「トランス女性はただの変態」などといった悪質なデマや誹謗中傷が、SNS上を中心に横行しています。先般の「LGBT理解増進法」成立の過程ではさらに激しさを増し、今も続いています。これらはまさに、今回の補足意見の中で出てくる「感覚的かつ抽象的」な言説であって、そのような「具体的かつ客観的」ではない曖昧な言説によって、不安を煽るようなヘイト(憎悪表現)を不特定多数に向けて発信する行為などあってはなりません。今後は、このような状況を改善していくためにも、施行されたばかりの「LGBT理解増進法」を、当事者の実態を踏まえて運用していくことが重要だと考えます。
今回はあくまでも個別のケースにおける判決ではありますが、このような事例の積み重ねによって、また、社会的な議論や理解の広がりによって、良い形での合意形成がなされていくことを希望します。
最後になりましたが、7年以上にもわたり尽力され、この歴史的な判決を引き出した、原告や弁護団をはじめとする関係者の皆様に感謝と敬意を表すると共に、多様な誰もが尊重される社会の実現を目指して、弊団体もこれまで以上に日々の活動に邁進していく所存です。
判決文全文はこちらから
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf