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【イベントレポート】経営者や課題に向き合う担当者とLGBTQ+を取り巻く課題や現状について考える1日「Pride Conference 2023」を開催

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NPO法人東京レインボープライドは、2023年11月9日(木)に、企業経営者や課題に向き合う担当者(人事・広報・法務・CSR・ダイバーシティ&インクルージョンなど)を対象に、LGBTQ+に関する有識者の方などをお招きして、取り巻く課題や現状について情報提供するカンファレンス「Pride Conference 2023」を開催しました。本レポートでは、熱気溢れる当日の模様をアーカイブ動画とともにお届けします。

TRP2023「プライドカンファレンス」レポート動画

企業のインクルージョンとアドボカシーの推進

‐キーノートセッション『経済界がDEIにコミットする理由』

『経済界がDEIにコミットする理由』新浪剛史氏/菅大介氏/久保田智子氏【TRP2023 PRIDE CONFERENCEアーカイブ動画】①

「スピアヘッド、誰かが先に行くことが大事!」

11月9日(木)に開催された東京レインボープライドのプライド・カンファレンスにて、サントリーホールディングス株式会社のCEOであり、経済同友会の代表幹事を務める新浪 剛史氏はそう提唱した。

最初のセッション「経済界がDEIにコミットする理由」にて新浪氏は、「成功事例を少しずつ出していくことが、すごく重要」と日本全国、または日本に支社を持つ企業のDE&IリーダーやCEOに対して力強く語った。

「日本の企業の良さは、すぐ横並びに進めようとしますから、だから「出遅れまい」と思ったとたんに一気に変わる力を持っているんです」と、小さな変化が日本社会全体を変える転換点になることを説明した。

2015年から長きにわたって東京レインボープライドを支えてきた企業スポンサーの株式会社チェリオの菅 大介社長も、この意見に同意した。

「東京レインボープライドに日本の経済人を代表する経済同友会が参加することは、世界に鑑みても画期的なリーダーシップの実践事例であり、日本の経済会が社会変革を推進する端緒となることにワクワクしています。」

菅氏は、TRPは日本の未来を担う次世代への重要なメッセージでもあると述べた。

「これからの21世紀の日本をつくっていく子どもたちを中心に置いて、日本の国づくり、民主主義をアップデートしていきたい。経済同友会がリードして、子どもたちを応援する政策を職場と家庭からつくっていくことで、少子化、高齢化の中で埋没しがちな日本の子どもたちの可能性を最大限に活かし、世代間格差を機会と捉えて価値共創ができる、イノベーティブな日本への道が開けると考えています。」

企業の経営者やCSR・DE&Iの担当者と前進的なアドボカシーを考えることを目的とした本カンファレンスには、80を超える多様な企業から120人以上が参加し、加えてオンラインでも多くの人が集まり、東京レインボープライドへの参加を強く意欲づけるイベントとしてスタートした。

浮き彫りになったトランスジェンダーの権利

‐キーノートスピーチ『トランスジェンダーも活躍できる職場環境を考える』

『トランスジェンダーも活躍できる職場環境を考える』TRP監事 立石結夏 弁護士【TRP2023 PRIDE CONFERENCEアーカイブ動画】②

本カンファレンスでは、ダイバーシティ&エクイティ&インクルージョン(DE&I)の分野を率先して取り組んでいるCEOから、法律の専門家によるトランスジェンダーの権利に関する最新の法的状況まで、さまざまな分野の専門家が登壇。今後企業のDE&Iを考える上で洞察と戦略の観点から進めていくことがいかに重要であるか、各セクションの内容から垣間見ることができた。

その中でも、立石 結夏氏の「トランスジェンダーも活躍できる職場環境を考える」と題した基調講演には多くの参加者から非常に参考になるとの声が聞かれた。

トランスジェンダーの経済産業省職員に、職場で女性用トイレを使用することを認めなければならないと最高裁が判決を下した「経済産業省事件」において、原告の代理人を務めた立場から、この裁判から見えた世の中に蔓延するトランスジェンダーへの偏見、そして、その偏見による誤った対応がいかに企業のリスクになるかを語った。

この件で経済産業省側が主張していた「女性職員の性的不安」というものが実は、一緒に働く女性職員達から挙がったものではなかったということ、また、女性職員の声を聞くことすらしていなかった点を指摘。

「施設管理者等(企業)は、女性職員が一様に性的不安をもってトランスジェンダー(MtF)の女性トイレの利用を反対するという前提に立つことなく、関係者間の調整していくべきだ」と裁判官の補足意見があったことを踏まえた上で、企業としてのどう対応すべきかの課題に対し、
「会社としてはこういう事案が発生した時に、トランスジェンダーではない女性職員らの利益というものがあるか、ないか、そしてそれがトラブルを生ずる具体的な恐れとなるのか、そして不利益を被るのは誰か、調整のあり方のバランスが取れているか、こういうことを考えてください、と(裁判官の補足意見では)言っています。」と説明。

特に、女性には多様な意見があり、トランスジェンダーの存在が女性にとって危険であるという考えに全員が賛同しているわけではない、という事実を考慮しないこと自体が偏った考え方であると立石氏は断言している。

企業とNGOが手を組み、より強いインパクトを目指

‐『パートナーシップで進化する企業のLGBTQ推進:企業やコミュニティとの連携』

『パートナーシップで進化する企業のLGBTQ推進〜企業やコミュニティとの連携〜』笹井明日香氏/岩橋恒太氏/小田絵美理氏/吉田彩夏氏【TRP2023 PRIDE CONFERENCEアーカイブ動画】③

このカンファレンスでは、単に法的・構造的側面を理解するだけでなく、アライの必要性が極めて重要であることが改めて語られた。特にプライド・フェスティバルの期間中は、アライの中でも結束と理解を促進するコミュニティが育まれることが多い。

その一例として、HIV/AIDS治療の研究開発を専門とするイギリスの多国籍製薬会社ヴィーブヘルスケア社と、HIV/AIDS情報センター兼イベントスペースのaktaによる共同ワークショップが挙げられ、彼らは数年前からチームを組んでいるが、東京レインボープライド2023のフェスティバルでも共同ブースを設けたことで多くの反響があったという。

「たくさんのコミュニティの人たち、NPOの人たちから相談がありました」と特定非営利活動法人akta代表の岩橋恒太氏は言う。「TRPのような大きなイベントだとNPO、NGOのレベルだと目立つようなブースを設置するというのがなかなか経済的にも、それから人の面でも厳しいというところがあります。なので、どうやってこういうふうに企業さんと一緒にコラボレーションをして大きな規模で展開できたのか」と振り返る。

この関係は、両者にとってウィンウィンの関係だったという。

「どうしても企業として活動していますと企業の一人よがりの活動になってしまうというところもありまして」と、ヴィーブヘルスケア株式会社の渉外・医療政策・患者サポート担当マネージャーの笹井明日香氏は述べた。「aktaさん含んで普段お付き合いしているセクシュアルマイノリティだとか、広く社会に予防啓発人権擁護の活動をしている団体と一緒に出展をすることで、当事者性を高めることができました。」

同性婚はビジネスにもいい影響を与える

‐『企業が推進する同性婚支援について』

また、次のワークショップでは、セールスフォースのLGBTQ+アライERPG(Employee Resource Group)であるOutforceの共同代表であるピーター・嶋氏と河津 玲奈氏、そしてLLAN(Lawyers Network for LGBT and Ally)の共同代表である藤田 直介氏が、婚姻の平等(いわゆる、同性婚)がなぜビジネスにとって良いのかを議論した。

藤田氏は、少なくとも経済界では、結婚の平等を支持する動きが転換点を迎えているのではないかと考えている。

「ビジネス・フォー・マリッジ・エクオリティーを支援する企業が100社から450社に増えた」と日本における結婚の平等(同性婚の合法化)を支持する企業を集めた「Business for Marriage Equality」キャンペーンについて、彼はこう語った。

「ここでは多くのステークホルダーがいまだに声を上げることができず。可視化するためにも企業が代わりに声を上げる必要があるのが大事。」と藤田氏はいう。

さらに、社員の実力を最大限に発揮してもらうには「社員にとって安全な職場であること、もっと大切なことは社員を平等待遇することが大事である」と語った。企業への貢献度は同じにも関わらず同等な権利が得られないということは、働く社員にとって精神的なプレッシャーを抱えるものとし、企業が同性婚支援をすることがいかに重要かを述べた。

セールスフォースの河津氏も、企業にはLGBTQ+に限らずマイノリティ性を持っている人がいることを前提に「社員が他の社員と同等な権利を受けることが出来ない状態というのは、そのギャップを埋めていくのは社会だけでなく、会社としても責務だと思っています。」と続けた。

セールスフォースの嶋氏は、企業内が安全になっても、一歩外に出た社会がそうでないという現実がまだあり、企業が外に向かって声を上げて、社会を変える一役を担って欲しいと語った。

当事者・コミュニティからのフィードバックとインクルージョンの必要性

‐『アクサのトップが実践するダイバーシティマネジメント』

『アクサのトップが実践するダイバーシティマネジメント』安渕聖司氏【TRP2023 PRIDE CONFERENCEアーカイブ動画】⑤

アクサ・ホールディングス・ジャパンの安渕 聖司代表取締役社長兼CEOは、TRPの杉山 文野 共同代表理事とともに、インクルージョンの育成を追求する上で、当事者やコミュニティからのフィードバックが重要な役割を果たすと語った。

安渕氏は、マイノリティ・グループに内在する多様性に言及し、当事者やコミュニティからのフィードバックの必要性を強調した。「我々が見落としているかもしれないことが、成長のための貴重な機会である」との考えを示した。

「マイノリティの中にも多様性がある」と安渕氏はいい、インクルージョンを進めていく中で、取り組みの全てがマイノリティの人たちに好意的に受け止められるものではないことを前提に「全体として少しでも良くなればという想いでやること。中期的な目標を掲げその意思をしっかり持った上でフィードバックをもらい、できていないことがあれば直せばいい。いい機会をもらったと捉えて修正し、前に進んでいくことが大事」と語った。

ダイバーシティへの取り組み全般にLGBTQ+を取り入れる

‐『社内各所を巻き込んだ施策の推進について』

『社内各所を巻き込んだ施策の推進について』石井優貴氏/吉村美音【TRP2023 PRIDE CONFERENCEアーカイブ動画】⑥

最後の基調講演では、セガサミーホールディングス サステナビリティ本部の石井 優貴氏と、freee株式会社 ダイバーシティマネージャーの吉村 美音氏が、LGBTQ+の取り組みを社内のさまざまなダイバーシティの中に入れることの重要性について語った。

セガサミーホールディングスでは、どんな人でもパフォーマンスを発揮できるような職場環境をつくることからスタートしたという。2021年にグループ横断イベントとして実施したセガサミー・サステナブルウィークスに、LGBTQ+、障がい者、環境問題などいろいろなテーマを織り交ぜて講演等を実施したのがターニングポイントとなったと石井氏は語る。

1つのテーマにフォーカスするのではなく、できるだけ多くのダイバーシティを伝えようとする石井氏とセガサミーホールディングスの取り組みについて吉村氏は、「どうしてもダイバーシティの施策を進める時に、例えばLGBTQ+にフォーカスをするとダイバーシティってLGBTQ+だけじゃないでしょうとか、例えば女性の話にフォーカスするとダイバーシティって女性だけじゃないよねっていうことを言われてしまう。なのでさまざまなものを取り上げ企画にするセガサミー・サステナブルウィークスという枠組みで提供するというところは学ばせていただきました」と語った。

プログラムの最後に共同代表理事である杉山 文野から、2024年4月19日から21日に開催予定の東京レインボープライド2024のイベント概要を発表し、このパレードとフェスティバルの社会的意義を改めて訴えプライド・カンファレンスは幕を閉じた。

今回参加者の多くからは、来年の活動に向けてのアイデアを得ることができ、積極的な参加の必要性やLGBTQ+へのサポートなど、学びや参考になることがたくさんあったと感想を聞くことができ、非常にポジティブなエネルギーに会場は包まれた。その後同場所で行われた懇親会でも、企業担当者間の交流が活発に行われた。

「今回初めて来て、すごい刺激的で、勉強にもなりました」とLVHMモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパンの柿原 理紗子氏は語る。「改めて、セレブレーションだけではなくて、企業のレスポンシビリティとして、まだ日本でやっていくことがたくさんあるんだなというのを直感的に感じました。」

また、東京レインボープライドに継続して協賛している企業担当者は、今回のプライド・カンファレンスから多くのことを得ることができたと喜んでいた。MSD株式会社LGBTQ+ EBRG支部の日本代表であるセドリック・ティリオンは語った。「東京レインボープライドに2度、そして札幌レインボープライドにスポンサーとして参加した後、この勢いを継続させるためのアイデアを探していたが、この会議は参加する価値のあるものだった。」

今回のプライド・カンファレンスを通し、さまざまな視点や専門知識が交わされたことで、有意義な変革のための基盤がより強固なものになったと言えるだろう。参加者はそれぞれの会社や組織に戻り、インクルージョン&イコーリティをさらに推進するための豊富な知識とインスピレーションを携えることにより、未来に繋がるさまざまな新しい動きや可能性が生まれてくることを期待している。

文=オリビエ・ファーブル
写真=Akane Kiyohara

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