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【イベントレポート】LGBTQ+を取り巻く現状と進むべき未来を語る「プライドカンファレンス2024」開催

NPO法人東京レインボープライドは、2024年11月28日(木)に、主に経営者や担当者(人事・広報・CSR・ダイバーシティ&インクルージョンなど)の方々を対象に、LGBTQ+に関する有識者や当事者の方などをお招きして、取り巻く課題や現状について情報提供をする「プライドカンファレンス2024」を開催しました。

本レポートでは、熱気溢れる当日の模様をアーカイブ動画とともにお届けします。

11月28日(木)、会場となった東京・大崎にあるフリー株式会社には、受付スタートとともに続々と参加者の皆さんが来場されました。

13時のカンファレンス開始前は、参加者同士で名刺交換をしたり、当日配布したNPO法人東京レインボープライドの「2023年度年間活動報告書」や、Pride Parade & Festivalをはじめとするイベントに参加にあたってのお願いをまとめた資料に目を通したりするなど、それぞれの時間を過ごします。

開始時間とともに、司会を務めるフリーアナウンサーの馬場 典子さん、会社員の傍らドラァグクイーンディーヴァユニット「八方不美人」でも活動する、ちあきホイみさんのお二人が登場しました。

お二人から本日のタイムテーブルを紹介した後、さっそく一つ目のセッションがスタート。本レポートでは、各セッションの様子を一挙にご紹介します。

「変わるまで、あきらめない。」経営者が経済界と組織を変えていく

【登壇者(敬称略)】
菅 大介 チェリオグループ 代表取締役社長
金山 桃 LVMHフレグランスブランズ 代表取締役社長

【モデレーター(敬称略)】
杉山 文野 NPO法人東京レインボープライド 理事

日本におけるLGBTQ+を取り巻く深刻な課題は、法整備が進まないことです。この壁を乗り越えるには、民間企業から社会的インパクトを生み出し、政治や日本社会全体を動かすことが必要です。

その民間企業においても、自社の組織を動かすのは簡単ではありません。Pride Parade & Festivalへの協賛企業のトップを務める菅さん、金山さんは、ともに自社を動かしてきた経験をもちます。

「TRPへ参画した当初の壁は、社員の『無関心』でした」と言うのは、菅さん。それでも毎年プライドパレードへ参加し続け、参加した社員からは「来年は部下と参加したい」といった声が徐々に増えていったとのこと。「頭で考えるより、まず行動してみることで何か感じるものがあったのだと思います」と、続けることの重要性を語ります。

TRPに参画して10年以上が経ったチェリオグループでは、社員の40%以上がプライドパレードへの参加経験をもち、社内では婚姻の認証制度を変えるなどの動きも進んでいます。活動を継続することで、確実に組織内でアライの輪が広がっているのです。

そして、グループ全体でTRP2024に協賛したLVMHグループ。グループ全体での参画を実現するまでの道のりは険しいものがあった、と金山さん。

「各メゾンに意思決定権があるLVMHグループ全体で協賛するために、ホールディングスの人事などからメンバーを募り、各メゾンと交渉しました。プロジェクトリーダーのモチベーションを保つことを常に意識していましたね」(金山さん)

金山さんは来年以降も活動を継続する意欲とともに、ビューティー業界が果たすべき責任についても、「私たちのように消費者に接している企業が店頭でインクルーシブな空間をつくることで、社会貢献ができると考えています」と言及しました。

こうした経営者による不断の努力により、経済界全体に大きなうねりが起きています。経済同友会が、TRP2024のスポンサーになったのです。

「経済界のリーダーが、プライドパレードに笑顔で参加していたのが印象的でした。さらに人の縁がつながり、ライバル関係にある同業他社も一緒にTRPに参画してアライの輪が広がっています。これからも、ビジネスセクターから日本を変えていくことを目指します」(菅さん)

「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」 組織を変えたパナソニックコネクトの取り組み

【登壇者(敬称略)】
樋口 泰行 パナソニック コネクト株式会社 代表取締役 執行役員 プレジデント・CEO
西川 岳志 パナソニック コネクト株式会社 代表取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CFO DEI担当役員
山口 有希子 パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント CMO DEI担当役員、カルチャー&マインド改革推進担当役員

【モデレーター(敬称略)】
馬場 典子 フリーアナウンサー

日本を代表する大企業であるパナソニックグループにおいて、トップの強いコミットメントのもと、DEIを力強く推進しているのがパナソニック コネクトです。同社のDEI推進体制は、CEOの樋口さんを筆頭に、西川さんや山口さんらの担当役員、CHRO、DEI推進室、そして各事業場のDEI推進をリードする事業場Champ(チャンプ)が連携して活動しているとのこと。

歴史の長い会社でスピーディーにDEIが推進されている理由を樋口さんに伺うと、「トップダウンで呼びかけを行ってきたから」との答えが返ってきました。「何事も変わりたくない人がマジョリティ。実現したい企業カルチャーをトップ自ら体現しなければ、会社は絶対に変わらない。DEI推進室を作っただけ、あるいはイベントで最初に顔を出して挨拶をしただけではダメなんです」と、経営者が先頭に立つことの大切さを語ります。

同社のDEI推進の特徴は、現場の声を聞くこと。担当役員が社員と対話をする活動に力を入れています。まだまだカミングアウトしている当事者はごく少数だといいますが、それでも聞こえてくる声を逃さず、皆がいきいきと働ける環境をつくっているのです。

「最初はDEI推進の取り組みを冷ややかな目で見る社員が大半でした。ところが今ではDEIが当たり前になり、どのように実行すべきかといった意見が多くなっています」と、この7年での社内の変化を西川さんは語ります。

また、パナソニック コネクトは全社員の人権を守るためにハラスメントへの罰則を厳しくするとともに、プライドハウス東京と共に企画し、志を同じくする20の企業・団体が連携した企業連合プロジェクトとして日本経済新聞に全面意見広告を出すなど、社外への発信も強化してきています。山口さんは「社員が幸せになるための活動を進めることは、社会が変わることにもつながっていく」と、自社のみならず社会全体に向けたDEIへの思いを語りました。

パナソニック コネクトが目指すのは「強くて優しい会社」。強い企業競争力を持ちながら、何よりも社員一人ひとりの人権を尊重する会社であるために、これからも社員が個性と能力を発揮できる職場にしていく意欲に溢れていました。

「一人ひとりへのサポート」個性を尊重し、働きやすい環境づくり

【登壇者(敬称略)】
小野 咲子 パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 組織・人材開発センター DEI推進室
松田 聡子 パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 DEI推進室 主幹

【モデレーター(敬称略)】
林 永誉 NPO法人東京レインボープライド スポンサーシップチーム リーダー

次のセッションでは、パナソニックグループが個性を尊重し、働きやすい環境づくりをどのように進めているのかを、小野さんと松田さんのお二人からご紹介いただきました。

パナソニックグループでは、働き方改革や女性活躍にいち早く着手し、2016年からLGBTQ+への取り組みを本格化。法的要件等で対象外となるものを除き、同性パートナーにも配偶者に準じた取扱いを適用するなどの人事制度整備をはじめ、全社員へのLGBTQ+当事者への理解促進のための研修実施、ユニフォームの男女区別撤廃、採用面接の性別欄に男女以外の項目追加など、ハード面とソフト面の両方で次々に施策を実行してきました。

さらに2021年からは「グループDEIフォーラム」を開催してトップメッセージとしてDEIの重要性を伝え、2022年からはアンコンシャスバイアストレーニングを全社員へ行うなど、取り組みを加速させているのです。

小野さんは、グループのDEI推進担当として注力しているのは「当事者にとって使いやすい人事制度にすること」と語ります。当事者に困りごとを聞き、その声をもとに制度整備や研修開催などを進めてきました。

こうした取り組みの積み重ねは社外にも広く知られるまでになり、「パナソニックは当事者を応援してくれる企業」だと知って入社を決めた社員もいるといいます。

社員数23万人の巨大企業でDEI、特にLGBTQ+の取り組みを推進できたポイントは、グローバルで統一した施策は行わず、国ごとの文化や実情に合わせている点です。と同時に、毎月グループ横断のDEI推進会議を行い、横の連携を強化しているとのこと。

松田さんは最後に、「LGBTQ+の方々にとって、差別を禁止する法整備が追いついていないのが課題。これは差別をしている状態のまま社会が変わっていないということです。ここにいる皆さんはアライだと思うので、小さな一歩を一緒に踏み出して、社会を変えていきましょう」と思いを語りました。

「DEI推進に必要な継続性」他社施策事例から学ぶ

【登壇者(敬称略)】
堀江 菜月 セガサミーホールディングス株式会社 サステナビリティ本部 サステナビリティコミュニケーション部
石井 優貴 セガサミーホールディングス株式会社 サステナビリティ本部 サステナビリティコミュニケーション部

【モデレーター(敬称略)】
吉村 美音 フリー株式会社 DEI lead / NPO法人東京レインボープライド 経営企画/人事マネージャー

昨年のプライドカンファレンスでDEI推進施策を紹介したセガサミーホールディングス。2年連続の登壇となった今回は、この1年間の変化や進捗を紹介しました。

セガサミーグループは、2019年からTRPに協賛し、昨年からはブース出展も行っています。石井さんは、「TRP2024では従業員ボランティアを募集して、ブース運営を担当してもらいました」と今年の取り組みを紹介。プライドバレードへの参加人数は昨年の40人から80人へ倍増し、CEOやグループ各社の新入社員も多く参加したとのこと。さらに当日会場へ来ることができない従業員も活動に参加できるよう、メッセージを書き込める横断幕を用意したそうです。

何年にもわたり理解促進活動を続けた結果、グループ内で配布するアライであることを示す特製レインボーストラップは1,400人以上の従業員が持っており、さらに海外拠点でも独自のDEI推進施策が進むなど、全世界でグループ全体にアライの輪が広がっています。

同グループはこういった理解促進活動活動だけでなく、LGBTQ+に関する制度も整っています。同性パートナーを配偶者と同等にみなして各制度を運用しており、また積立年休を性別適合手術やホルモン治療に充てられることも制度に明記しています。「ここまで制度を明記して運用されているのは、経営陣はもちろん、従業員の理解も進んでいる証拠だと感じます」と堀江さんは語ります。

セガサミーグループでDEIがここまで浸透している理由を問われると、石井さんは「トップのコミットメントが大きい」と回答。同グループではサステナビリティビジョンを2022年に策定し、自分たちが実現すべきサステナビリティを明らかにしました。このビジョンにより、従業員が目指す方向性を明確に理解するとともに、迷ったときに指針になっているといいます。

最後に、堀江さんから「トップのコミットメントがなく悩んでいる企業も、時代が変化したり、現場からのボトムアップの動きが大きくなったりして、ターニングポイントを必ず迎えるはず。その来る日に備えて、いろいろな会社と連携しておくことだ大切だと思います」と企業へのメッセージをいただきました。

「トランスジェンダーについて企業が知っておくべきこと」

【登壇者(敬称略)】
高井 ゆと里 群馬大学 准教授

最後のセッションでは、群馬大学の高井 ゆと里さんから、トランスジェンダーを取り巻く現状や企業が認識しておくべきことについてお話いただきました。

企業が認識しておくべきこととして一点目に挙げたのは、トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と、自認している性別が異なる人)には多様な状況の人がいる点です。出生時の戸籍、今の戸籍、性自認、身体上の特徴、社会生活上の性別において、ひとりの人の中でさまざまな「性別の散らかり」があるトランスジェンダーへの理解を促します。

次に、企業が理解しておくべきことについて、具体的なケースとともにご紹介いただきました。まず、個人の性別移行については本人のカミングアウトの意志によらず秘密を守り、差別をしないこと。書類の扱いや健康診断時の対応も丁寧に進める必要があります。

本人の安全を守ることも意識すべきです。在職中に生活上の性別を移行する人もいることを前提に、憶測で判断したり陰で話したりせず、必要に応じて本人と対話をすべきだと高井さんは強調しました。

社会全体に目を向けると「現在の社会はトランスジェンダー不在で設計されている」と、厳しい現状を語ります。当事者は就職が困難、受験資格喪失、病院での受診拒否など、あらゆる排除に直面するがゆえに、貧困に悩み、健康面や心理面で苦痛を感じる人が多いといいます。

さらにグローバルの情勢としては、トランプ政権がアメリカ大統領選時に反トランスジェンダー広告を流していたことなどを例に挙げ、世界的にLGBTQ+がバッシングを受けており、その前線にトランスジェンダーが立たされていると語ります。トランスジェンダーに焦点を当てて争いを生み出し、その攻撃の矛先がLGBTQ+、そしてDEI全体へと拡大しているのが現状です。

企業活動は公共インフラや医療、教育機関など多くのものに依存している以上、誰もが差別されることなく、社会全体が平和でなければなりません。「皆さんは企業活動を壊そうとするような争いに参加するのではなく、平和を生み出す助けをしてほしい」と高井さんは訴えました。

5つのセッションに加え、セールスフォースから同社の社会貢献活動*について紹介をいただきました
注)セールスフォースの社会貢献の取り組みについてはこちらをご参照ください。

セッションを終えた後は、2025年協賛説明会を経て、最後に参加者同士のネットワーキングが行われました。

ネットワーキングでは、参加者の皆さまが、今日のセッションの感想や自社の取り組みについての会話が弾みます。各セッションでも話題にあがっていた企業・団体間の連携が、ここでも生まれていました。

2025年は、東京レインボープライド(TRP)は、コンテンツの総称を「東京レインボープライド」から「Tokyo Pride(トウキョウプライド)」に改め、2025年6月の世界的なプライドマンスに合わせ、「Same Life, Same Rights」のテーマのもと「Tokyo Pride 2025」を開催します(詳細はこちら)。これまでと同じくパレードやフェスティバルを行うほか、LGBTQ+への理解と人権を考える多彩なイベント等を展開する予定です。

今後も多くの企業の皆さまと、誰もが自分らしい人生を歩める社会づくりを推進していきたいと考えています。

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